Vol.11 木内酒造合資会社

2005年のいばらきデザインセレクション事業の初年度から応募をいただき、商品開発、飲食店事業、ブランディングなどでこれまでの選定回数は11回と最多を誇る木内酒造合資会社にお話しを伺いました。 

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▲左から、木内酒造合資会社 企画室の大賀明子さん、萩谷真千子さん

IDSへの挑戦が
プロジェクトに挑戦する励みとなる

ー御社は初選定の「木内柚子ワイン」に始まり、その後は「木内梅酒」、「常陸野ネストビールNIPPONIA」などの商品開発、“常陸野の風土を味わう”というコンセプトの「常陸野ブルーイング品川」などの飲食店事業と、ブランディングの領域に広がりを見せてきました。また、事業活動のエリアも県内にとどまらず都内、海外へと進出しています。
 今日は、いばらきデザインセレクション2019でテーマセレクション部門知事選定を受けた、常陸野産ウイスキーの生産を目指す「八郷蒸溜所」でお話しをうかがいます。
 まずは、IDSに挑戦することになった経緯からお聞かせください。

萩谷  当社には「毎年面白いプロジェクトに挑戦する」という企業文化があります。IDSもそうしたチャレンジの一つでした。
 IDSは毎年ありますので、何かプロジェクトに挑戦する際、「今年もIDSで発表するぞ」という励みになりましたね。同時にプロジェクトを公に発表する好機にもなります。

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▲IDS2019テーマセレクション部門知事選定 八郷蒸溜所

酒蔵として生き残るために
しっかりとブランディングをしなければ
危機感からデザインに注目

ー“デザイン”に着目した理由はなんですか。

萩谷  酒造りに限らず伝統産業は存続が厳しいですね。歴史ある当社ですが、これから酒蔵として生き残るためには、しっかりとブランディングをしなければと危機感を持ったことがきっかけです。
 その中で生まれたのが「木内柚子ワイン」です。15年以上前に誕生しましたが、当時は大胆な挑戦だったと思います。ラベルのイラストは日本ビアジャーナリスト(※)協会代表でビール評論家、イラストレーターの藤原ヒロユキさんに描いていただきました。
 ※ビアジャーナリスト:進化するビールの造り手(醸造者)と飲み手(消費者)を公平かつ正確に責任を持ってつなぐ伝え手(ジャーナリスト)。

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▲IDS2005選定当時の木内柚子ワイン。御前山産の甘くてジューシーな柚子「タダニシキ種」で作ったお酒。※現在は商品リニューアル。

IDS選定を受けて
「デザインに意識的」という評価が広がる

ー「木内柚子ワイン」が選定された際のIDSのカタログを見ると、「お酒はビンもラベルも全てお洒落でなければならないという企業理念で開発されている」とあります。お酒の中身、品質だけでなく、パッケージデザインをはじめ商品全体から醸し出される雰囲気、さらにはその商品のある空間や時間のプロデュースまで、御社のデザインに対する意識が消費者との新たな関係性の構築にまで広がっていく予兆が感じられます。
 そうした中でIDSはどのように活用されていますか。IDCとしても、例えば選定作品を集めたカタログも活用しやすいように編集していますが、どうでしょうか。

大賀  カタログは多くの人によくご覧いただいているようです。また、IDSの選定を受けたということに対し、国内だけでなく海外からも「木内酒造はデザインでも評価されている」と認識されるようになり、当社がデザインに意識的であることが広く周知されるようになったと思います。

ー御社の情報発信力は高いです。「IDSの選定を受けた」と発信をしてくれることで、IDSの認知度も広がります。御社と私たちIDS運営側がお互いに発信していくことで、お互いの発信力が高められ、茨城県の魅力として認識していただけるように思います。

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ーこれからのIDC、あるいはIDSに期待することはなんですか。

大賀  県内の消費者に意外と知られていないなど認知度は不十分かも知れません。情報発信ツールに新しい工夫が必要ではないでしょうか。認知度を上げる工夫をお願いしたいです。

「八郷蒸溜所」を行政と民間、市民の「共創」が生まれる場所に

ーでは、最後にこちらの「八郷蒸溜所」についてお聞かせください。
 もともとは小学校、その後に公民館として、地域の人々に愛されてきた場所とうかがいました。

萩谷  骨組みはそのまま利用していますが、震災以降使われていなかったようです。しかし、この建物の正面に広場があり、そこがゲートボール場として愛用されていました。地元の皆さんの憩いの場所をそのままにしたい思い、これから広場も整備していきます。
 当社では2016年から那珂市にあるビール工場の一角でウイスキーを蒸留していましたが、いずれどこかに蒸溜所をと考えていました。そんな中、石岡市内に八郷地区の自然を丸ごと楽しめる「Yasato de トレタ レストラン」を石岡市から委託され運営する経緯もあって、市からこの場所を紹介されました。ここには筑波山系からの豊かでおいしい伏流水があり、眼前には筑波山、眼下には川又川の支流という美しい自然があります。おいしい水は酒造りに欠かせませんし、一般の見学者に解放する計画ですのでロケーションにもこだわりたい。ここはまたとない場所でした。

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▲©齋藤さだむ


―地域活性、地域の魅力創出ということでは、石岡市からの期待も大きいのではないでしょうか。
 八郷は山があり田園が広がり、穏やかな茨城らしさをギュッと詰め込んだような地域です。この良さを発信する拠点としても期待したいと思います。

萩谷  八郷には筑波山をはじめ「茨城県フラワーパーク」、当社の「Yasato de トレタ レストラン」などの観光資源が点在しています。ここ「八郷蒸溜所」をハブに、それらをつなぐツアーなども企画したいですね。点から線、面へとつなげることで魅力が倍増していくのではと思います。

 「八郷蒸溜所」には見学コース、試飲スペース、販売所を併設していく予定です。今は一般開放を前に、蒸溜所としての機能の他に見学者を受け入れる準備も進めています。
 商品開発でも飲食店事業でも、食や文化といった茨城県の魅力を伝えるのが当社のスタイル。現場だけでなく部署間が連携し合って、私たちらしい「八郷蒸溜所」を作り上げていきたいと思います。

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▲Photo:八郷の自然の美味しさを堪能できる「Yasato de トレタ レストラン」は茨城県フラワーパークに隣接する。©齋藤さだむ

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▲こだわりの醸造樽や蒸溜器を見ることができる。ブランド価値を魅せる姿勢はここでも一貫している。Photo:齋藤さだむ


―行政と民間、市民が連携していくことがこれからの地域デザインの在り方だと言われています。今後、「八郷蒸溜所」を舞台に様々なイベントやプロジェクトが展開されると思いますが、地域の人々を巻き込むと、さらに魅力的なものができそうです。ここで行政と民間、市民の「共創」が生まれるのではと期待が高まります。



●プロフィール

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企画室
大賀明子
萩谷真千子

木内酒造合資会社
1823年創業。
HITACHINOとして世界各国で親しまれている「常陸野ネストビール」をはじめ、清酒「菊盛」や「木内梅酒」などを醸造する蔵元。
2020年 八郷蒸溜所にてウイスキー蒸留を開始。
飲食店部門では、茨城県内に4店、東京都内に4店、常陸野の酒と食を味わう店舗を展開している。