Vol.7 奥順株式会社

創業明治40年(1907年)の結城紬の産地問屋。常に挑戦しながら伝統を伝える奥順株式会社の代表取締役専務の奥澤 順之さんと、「結城 澤屋」店長の伊藤 律子さんにお話しを伺いました。

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▲奥順株式会社 代表取締役専務の奥澤 順之さんと、「結城 澤屋」店長の伊藤 律子さん。店舗の軒際にかかる、糸つむぎの様子を模したサインの前で

いち早くデザインに注目
市内の反物問屋唯一の社内「デザイン室」

ー御社は2010年から結城紬を使ったショールやおくるみなどの商品で複数回、選定を受けています。2015年には産地問屋が展開する新しいスタイルの着物店として「結城 澤屋」の店舗ブランディングで知事選定を受けました。現在、ニュースレターを発行するなど伝統産業の魅力を幅広い世代に向けて発信する広報活動やイベント運営などを継続的に行なっています。
本日はその「結城 澤屋」にお邪魔しました。とても趣のある店舗ですね。どのようなコンセプトなのですか。

伊藤 「結城 澤屋」は着物問屋である当社が、着物の潜在需要に向け、「あらためてきものに出会う」をコンセプトに立ち上げたショップです。反物や帯の他に日本の手仕事でつくられた雑貨などもセレクトしてご紹介しています。雑貨の中で一番人気は国産の線香花火です。着物と無関係と思うかも知れませんが、どんな小さなものでも買って帰ることでお客様の心にも思い出が残ります。それが着物屋に対する心のハードルを下げてくれます。

ーとてもユニークな取り組みです。御社は社内にデザイナーを抱えていますが、なぜですか。

奥澤 珍しいですよね。結城紬はもともと無地で地味な色合いの男性ものの着物でした。しかし、明治維新以降、着物を着る人が女性ばかりになったことで、着物の「柄」が注目されるようになりました。多くの問屋は外部から図案を購入しましたが、奥順ではオリジナルを作りたいと考え、「図案室」を社内に作り、それが現在の「デザイン室」につながっています。
 デザイン室があるのは今でも珍しく、結城市内唯一です。当社の社長はデザインの重要性に早くから注目し、前社長は世界の織物を集めた展示や着物コレクターの着物を集めた展示などを行ったこともあります。
 デザイン室を作る際には、リクルートグループが提供する就職ポータルサイト「リクナビ」を使って募集しましたが、若者の応募が想像以上だったと聞いています。そして、「伝統工芸の世界でデザインをやりたい」という意志を持った若者が集まってきました。前社長は谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』に感銘を受けたと聞いています。日本は古来陰影の中でこそ映える芸術を作り上げてきました。それこそが日本の美学、美意識の特徴だと谷崎潤一郎は言います。彼の「真の美」を求める思想、姿勢に前社長は強く胸を打たれましたが、その思いが次の若い世代に受け継がれていると思います。

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▲IDS2010知事選定の結城紬ショール、IDS2012選定の結城紬ニット おくるみセット

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▲結城 澤屋 店内

現代人の着物離れに直面した
若いスタッフたちが
結城紬の魅力を伝えるために立ち上がる

ー奥順さんのIDSの選定は2010年度、結城紬で作った「ショール」が最初でしたね。IDSを知ったきっかけはなんですか。

奥澤 私は以前同級生から「これからは着物を着る人が少なくなって大変だな」と言われたことがあります。確かにそうです。しかし、こうした話が出てきたとき社内で実際に起こったことは、諦めではなく、「着物を着ない人にも結城紬の風合いを知ってもらおう。そのためにはどうしたらいいか?」という問題提起、前向きの発想でした。
 そして、結城紬の入口としての「ショールプロジェクト」が始まったのです。当時30代の若いスタッフたちが名乗りを上げてものづくりの方向性を決め、結城紬の魅力を伝えるショールやおくるみが誕生しました。
 IDSとはそんなときに出会いました。私たちのプロジェクトを第三者の目線で評価して欲しい、そしてプロジェクトを広く世の中に知らしめて欲しいという願いが生まれました。

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ー若い人たちに新しいプロジェクト、しかも結城紬の未来を切り開くプロジェクトを任せるというのは老舗とは思えない斬新な発想です。

伊藤 「奥順」らしさですね。どのような挑戦にも「ダメ」とは言いません。

ー商品開発だけでなくブランディングにもデザインを活用していますね。IDSの選定を受けてから変わったことは何ですか。

伊藤 「IDSの選定カタログで見たよ」とご来店いただく方もいらっしゃいます。IDSをご存知の方は美しいものや文化的なことに関心のある方が多いです。これはとりもなおさず、結城紬のターゲット層と同じ。
 ですから、IDSに選ばれたことで、ターゲット層により届きやすくなったと感じています。
 「私も以前選ばれたことがあるんだよ」とおっしゃる方もいて、IDSを通じてご縁が広がっています。

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IDSを架け橋に
他事業者とコラボレーションし
誰かを幸せにする「コト」を提案したい

ーIDCに望むことはどんなことですか。

伊藤 「いいもの」だけ、「いいもの」を作るだけでは伝わりません。「いいもの」を軸に、その先に何が見えるか、その景色を伝えて行かなければモノが売れない時代になりました。「ライフスタイルのデザイン」と言ったらいいのでしょうか。買ったあとの行動が伝わる見せ方が必要だと思います。
 「モノ」より「コト」と言われていますが、「澤屋」も誰かを幸せにする場でありたいと思っています。新しい「コト」をシェアできる場所にしたい。
 IDSの他の選定者や地域の事業者、地域の皆さんとコラボレーションして、誰かを幸せにする「コト」を提案していける店にしたいですね。IDCにはその架け橋になっていただきたいです。

奥澤 「ソサエティ5.0」と言われますが、サステイナブル(持続可能)な仕組みを作って社会にソリューションを届けるのがデザインだと思います。
 実は着物こそサステイナブルです。人の知識や経験、感情がつながり、受け継がれてはじめて存在できるのが着物だからです。
 結城紬は「三代着て良くなる」と言います。風合いの柔らかさ、光沢が増していきます。結城紬こそ今のトレンド、時代の最先端です。

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▲澤屋のニュースレター。澤屋の情報、結城紬の着こなしや催事を発信する


●プロフィール

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奥順株式会社 代表取締役専務 奥澤 順之
「結城 澤屋」店長 伊藤 律子
奥順株式会社

創業明治40年(1907年)。
創業以来産地の機屋と連携しながら、結城紬の企画とデザイン及び販売流通を請け負う「製造問屋」として、産地の発展に寄与。2006年には資料館を含む総合ミュージアムを敷地内にオープン。ショール、服地など、新しい商品・生地開発も積極的に行い、革新を繰り返し、伝統を伝えています。